
“私が大学を辞めた時,喫茶店附の古本屋をやるという記事が新聞に出たことがある。あれからもう五年経った。あの時あれを始めて居たら今から二十五年後には矢内原書店も盛大な記念会を開いて,M君たちを御馳走してやることができたであろうに,惜しいことをしたといふわけだ”(矢内原忠雄「読書の選択」(矢内原忠雄全集 第22巻))
戦前,“矢内原事件”により東京帝国大学教授を辞職した矢内原忠雄による,岩波書店創業30周年記念会でのM君との会話です。
矢内原は,東京帝国大学在職中から,読書倶楽部なるものを創る思いを抱いていたといいます。
学生と茶を飲みながら,良書の紹介,愚書の悪口など読書談義をし,書物の選択の相談に応じることを夢見ていたようです。
実際にゴシップ記事の反響として,古本屋を譲るとか,喫茶店を譲るとかの申し込みがあったと,矢内原は語っています。
矢内原が夢想した喫茶付きの書店が,2023年(令和5年)弓削島にオープンしました。
古本屋ならぬ新刊書店と日本茶カフェを兼ね備えた“本とおちゃの店 ゆたかの本屋ちゃん”では,宇治茶の“抹茶ラテ”,“ほうじ茶ラテ”などの店主オリジナルのお茶をいただきながら,本をセレクトすることができます。
北陸 金沢の茶商“林屋”が拓いたのも宇治木幡。
弓削島の塩を運んだ記録がのこる史料「兵庫北関入舩納帳」の編纂者 林屋辰三郎とのご縁がなせるわざでしょうか。
生口島の光明坊の近くには,私設の図書室“海辺の小さな図書室”があり,岩城島を臨む古民家の2階の和室に寝そべって,蔵書をひもとくことができます。
瀬戸内しまなみ海道の玄関口 尾道には,営業時間が平日23時から27時まで(週末11時から19時まで)の深夜に灯がともる古書店“古本屋 弐拾dB”が,港まちの路地にたたずみ,ページを繰る音をつむいでいます。
弓削島の喫茶付き新刊書店,生口島の小さな図書室,尾道の深夜の古書店。
瀬戸内しまなみ海道,ゆめしま海道に沿って本をめぐる空間を旅してみてはいかがでしょうか。“からみつく”一冊との出会いがかなうはずです。
●本とおちゃの店 ゆたかの本屋ちゃん
https://r.goope.jp/honyatyan/
●海辺の小さな図書室
https://www.instagram.com/lotta.sayuri.umibe/
●古本屋 弐拾dB
https://20db.stores.jp/
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