120年を超える校史を誇った上朝(かみあさ)小学校。明治23年(1890年)に上朝倉(かみあさくら)尋常小学校として開校し,昭和20年には437名の児童が通学した学び舎も,平成に入ると100名台,各学年1学級で推移した後,平成26年(2014年)に閉校式典を迎えるに至った。
 しかし,旧上朝小学校は,閉校からわずか1年後に新たな風を迎え入れた。
 平成27年4月(2015年)JFAアカデミー今治 開校。第1期生として中四国から10名の朝倉ガールズが,旧上朝小を宿舎として入寮した。かつての学び舎は,小学生の男女児童が集う場から,中学生の女子生徒が起居を共にし,グラウンドを駆けるエリート育成施設へと大きな転換を遂げた。
 JFAアカデミー今治の開設,旧校舎の宿舎への転用,県外からの入校と3年間の寮生活など,次々と巻き上がる疾風に,農業の盛んな朝倉地区で,土とともに生きてきた方々が当初さぞ驚いたであろうことは,想像に難くない。
 そのような中,朝倉の方々の動きは迅速だ。2016年には「JFAアカデミー今治を励ます会」を立ち上げ,グラウンド周辺の草刈り,登下校時の声掛けなど,朝倉ガールズを地域で見守る活動が始まった。

 朝倉ガールズにとって,もはや母校とも言うべきこの旧上朝小学校には「賛歌」があった。3番まで続く賛歌のうち1番と3番の歌いだしは「風」を詠んでいる。

みどりの風にさそわれて
ポプラが風を呼んでいる

 賛歌を歌い上げて6年間を過ごしたであろう地元の方々にとって,風にさそわれ,風を呼びこむことは,お手のものなのだろう。

ポプラが風を呼んでいる 空ゆく雲に夢のせて
はばたくひなのそのように かけるぼくらにわたしらに
あすの世界が待っている (上朝小学校賛歌 第3番)

 グラウンドを駆け巡り,世界のステージへと翔けていく鳳雛(ほうすう)。朝倉ガールズの飛来を,予想し待ち受けていたかのような歌詞。ここ旧上朝小学校にJFAアカデミー今治が開校した理由がわかったような気がする。

文:穂積 薫


JFAアカデミー今治
(愛媛県今治市朝倉上甲776)
https://www.jfa.jp/youth_development/jfa_academy/imabari/
食べ盛りの朝倉ガールズが練習と勉強に専念できるように,当社はNPO法人今治しまなみスポーツクラブと連携して,寮の食事を提供する事業を担っています。

 

 

 

CONTENTS

  1. Vol.1 蒼社川 静かに流れよ ~ 改名にこめられた鈍川の人々のおもい
  2. Vol.2 朝倉ガールズ ~ かけるぼくらにわたしらに あすの世界が待っている
  3. Vol.3 峰越しの道 ~ 奥伊予・奥四万十にさしこむ文化の光
  4. Vol.4 舒明天皇ゆかりの二湯 ~ 有馬の石碑にみる山内勇吉
  5. Vol.5 源氏の白馬か羊の群れか? ~ カルスト台地にみる戦争と平和
  6. Vol.6 風と土の尋ね人 ~ 新井満,岩波ホール,そしてSulikoとQvevri
  7. Vol.7 我が心は石にあらず ~ 瀬戸内の石風呂文化
  8. Vol.8 拝志川 あまきやさしきささやきに ~ 矢内原忠雄の原風景
  9. Vol.9 “たまがわ”の美 ~ 五島慶太と徳生忠常の贈り物
  10. Vol.10 治水のよすが ~ 美濃と伊予 清き濁流
  11. Vol.11 5時51分 松山発 宇和島行 ~ もうひとつの伊予灘ものがたり
  12. Vol.12 興亡 潮流と電流 ~ 名も奇抜なる瀬戸内海横断電力株式会社

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